TRPGをした話5

TRPG前回までのあらすじ

高層ショッピングモールの屋上に不時着した原大和と青田葵は、エリア86にたどり着くために脱出の方法を探していた。あちこちから集めた材料を使って簡易イカダを製作し、あとは救援を待つのみとなった二人の探索は一見順調に見えた。しかし互いに何やら懸念があるようで……?

GM、ぼくが青田さんを無理にドアの向こうに押し出す、とかいう動作をした場合、彼女が抵抗したらどうなるんですか?」

ひとりの方が、生き残れる確率は高いんじゃないでしょうか

――生存者よ、エリア86へ行け!

 

 

ホビーマウンテン見取り図

10階 屋上
9階 映画館
8階 レストラン
7階 家具屋
6階 電気屋
5階 スポーツ・レジャー
4階 本屋・CDショップ・文房具
3,2,1階 浸水

 

現在の浸水度

7階が半分水没

 

セッション中の会話は発言者の名前を色わけしてあります。

 

注釈が入ってるところは用語の説明か私の一言コメントです。

 

 

※ ※ ※

 

――最後のお遊びです。余った時間を楽しく消費しましょう!

 

青田:わーい!

 

:原青が予想以上に優秀だった!(ファンブラーだけど)

 

青田:まだ大丈夫なのがレストラン・映画館・屋上だけですね。

 

 青田:原さん

 

:はい。

 

青田:青田はしばらく、なんとも言えない顔でもごもごと口籠った後に、微妙に明後日の方向を見ながら言いました。「地球最後の映画、見たくないですか?」

 

:原は最初、いきなり何を言い出すのかこの子は、という目で彼女を見下ろしますが、青田のどこかもの慣れない、恥ずかし気な様子にふ、と肩の力を抜きました。

 

: そうか、自分は肩に変な力が入っていたのだなと、その時初めて気がつきます。そうして、もしや彼女はこんな自分を心配してくれたのかと、なんだか暖かな気持ちになりました。

 

青田:「その」追うように、なぜか急ぐように、青田が言います。

 

青田:青田はしばらく1人で百面相をしていましたが、そのうち真っ赤になって、かわいそうなくらいに目を潤ませながら、声を詰まらせてこう言いました。「で、で、………デート、はじめて、なんです」 蚊の鳴くような声でした。

 

:「そうだね」原は穏やかに頷きます。「ぼくは動物が出て来る映画なんか大好きなんだけどこんなおじさんでよければ」*1

 

:そうして、彼女と目線を合わせるために膝を曲げて、ぎこちなく微笑みました。*2

 

:「一緒に映画でも如何ですか、お嬢さん」

 

青田:ぱっ、と一瞬で青田の表情が明るくなりました。それからひどく躊躇いがちに、しかしやがて決心したように、おずおずと手を差し出します。

 

青田:「最後の映画ですから。すてきな時間にしましょうね」

 

:その手に触れて、指先だけで軽くつかんで。先ほどまでワイヤーだのビニール袋だの、そういったものと悪戦苦闘していたせいで少し傷ついてしまった華奢な手を、意外なほど熱く感じながら、原大和はそうだね、とまた頷きました。

 

:「記念すべき初デートだ。何が観たい? アクション、コメディ……ああ、えーと、ホラーだけは苦手なんだけど、もし君が観たいなら、頑張ってみるよ」

 

青田:自分より一回り年嵩の男が膝を折って自分と視線を合わせ、そう困ったように笑うのを青田はくすくすと笑いながら眺めました。 「じゃあ、一緒に動物映画を見ましょう。映画のデータがあるか分かりませんけど。動くかも、分かりませんけど。それでも。ぜひ」

 

――はい。というわけでですね*3

 

――映写機が動いたかどうかは二人だけが知るところ。とにもかくにも二人が映画館にいる間、ひたひたと水が上がってきます

 

青田:でしょうねえ……

 

:メリバの流れ

 

――二人が外を見ると、八階の天井から九階の床へ、じわりと水が上がってくるところでした。どうしましょう?

 

:「ああ、もう時間だ」原は名残惜しそうにそう言うと立ち上がり、隣に腰かけていた女性に手を差し伸べます。

 

:「デートの続きは、火星でというのは如何ですか、お嬢さん」

 

青田:青田は――

 

青田:青田は、笑います。 「ね、原さん。本当は分かってること、お互いにあるでしょう。真面目なお話をしましょう」

 

青田:青田は手を取りませんでした。

 

:原は首を傾げます。わからない、と。意識して、なにも考えていないように振舞いました。まるでなにも心配することなどないと言うかのように。

 

青田:「原さん。分かってるでしょう。あんなボロボロのメーヴェの筏、人を2人も支えられるか分からないこと。1人が乗った方が、確実に助かる。サーフボードで筏を作ろうって時も、ずっと同じこと考えてました」

 

青田:どちらを選ぶかなんて歴然でしょう。 青田は、駄々をこねる子供に言い聞かせるように辛抱強く言いました。

 

青田:「私は頭が良いだけの子供。片腕は、応急処置のお陰で痛みはありませんが、少し不自由です。ね、原さん。ライフセイバーをやっていらっしゃって、水泳が得意で。原さんなら大丈夫だって分かってるでしょう。私が1人乗っても生き残れるか分からないけれど、原さんなら」

 

:「お嬢さん」

 

:何かを言いかけた青田を、原は遮りました。

 

:奇妙なほど落ち着いた気持ちだ、と彼は思います。感情は穏やかに凪いでいて、ただ目の前で必死な、守るべき小さな女の子を慈しむように見つめていました。

 

:「新人のライフセーバーなんかには、よくよく言い聞かせることだけどもね。この仕事は、まず自分の無事を確保できない人間には務まらないんだよ」

 

:「溺れる人の力の強さを知ってるかな? すごいものだよ。どんなに小さな子どもでも、死に物狂いで暴れるんだ。自分の命がかかってるからね。パニックになって、手あたり次第暴れ狂う、なんてのも、まあ珍しいことじゃない」

 

:だから、と原は言います。だからライフセーバーは、自分たちは決して過信しないのだと。

 

:「ぼくらはね、確実に『助けられる』ようにするのが仕事なんだ。ぼくひとりなら助かる? そうかもしれないね。でも、ぼくはこう思ったからずっと君と一緒にいたんだ。『ぼくとこの子ふたりなら助かる』って」

 

青田:「ほんとに?」 泣き出す寸前のように声が縒れました。 「ほんとに、そう思う?」*4

 

青田: あなたが私のせいで、私が助かるせいで死ぬというなら、私、そんなことにはとても耐えられない。眉間に深く皺を寄せ、顔を強張らせて青田は囁きました。

 

:「正直に言おう。あとひとり誰かがいたら、ちょっと厳しかったかな。もしくは、君の体重が今の3倍あったとしたら」

 

青田:ぷ、と青田は小さく笑いました。

 

:その笑顔に、原は少し、安心したように息を吐きました。

 

:「助かりたいと思いなさい、お嬢さん。ぼくらは助かりたくて必死な人を助ける方法は知っているんだから」

 

青田:「……本当に、本当ですよね。信じちゃいますよ」 不安げに瞳を揺らがせて、青田はそう言います。そしてまた、先ほどよりもずっと臆病に、原さんの方に手を差し出します。

 

青田:それはかすかに手が前に揺れたと同じ程度の動きで、そこでまた青田はぴたりと動きを止め、躊躇っています。

 

:おずおずと差し出された彼女の手を、足りない距離を埋めるように腕を伸ばして引き寄せて、原は彼女を肩に抱き上げました

 

:驚く声も、抗議の言葉も。ひょっとしてこれってセクハラかなあ、なんて自らの心の声も、今だけはまるっと無視して歩き出します。

 

――はい。では浸水です

 

青田:浸水「よ う や く」

 

――ここに来ていよいよ時間がありません

 

青田:原さん走って

 

:屋上まで走ります!抱き上げたまま!

 

――あなたたち(原メイン)はいそいで屋上へと駆け戻ります

 

:イカダの上でも抱っこのまんまです!

 

青田:ヒュー

 

――背後からは二人を追いかけるように、または二人に付き従うように水が迫っています。二人はイカダにのりこみました。しかし。ひとつのメーヴェに二人が入ると重心の関係でどうしても安定しません

 

:そりゃそうだった。お嬢さんを隣のメーヴェに乗せて、ついでにサーフボードふたつも彼女の方に置きます。

 

:んで、バランス取るのに体を青田さんの方に乗り出して、救助船が少しでも早く見えるように立ったまんまでいます。これでふたりの体格差相殺できますか?

 

――できることにしましょう! それでいい? 青田さん

 

青田:(何も言えずに口をはくはくさせている)(みるみる顔が真っ赤になる)

 

:悪い大人だなあ原とかいうやつ

 

――さて。いよいよ波がせり上がってきます

 

――二人を載せたイカダを、ゆっくり水がとりまいていきます。水にさらわれ一度クラリと揺れましたが、イカダは問題なく浮かびました

 

青田:やった~~!

 

:こ、これは……ハッピーエンド……!?

 

――じょじょに水に押し上げられ、屋上の高いフェンスを超すくらいまでイカダは上昇していきます

 

――その時の光景をあなた達は一生忘れないでしょう。一面が水に沈み、水平線まで巨大な鏡のように空を映していました。

 

青田:(どきどき)

 

:わくわく

 

――雨が徐々にやんで、これなら救援ボートも見つけやすいだろうと思われます

 

青田:エンドロールが流れ始めましたよ

 

――しかし、そのときです

 

青田:!?

 

:!?

 

――突如、まるで嵐の最後の名残だとでも言うように、強い強い突風が二人を襲いました。二人のメーヴェを結んでいた紐が風に耐えきれずほどけ、二人は風に流され離れていきます。手を伸ばしても指が届かず、風が止むのを祈ることしかできません。下手にバランスを崩すと転覆してしまうでしょう。

 

――ここで、最後のロールです*5

 

:何ロールですか、GM

 

――(水泳+操縦)÷2。ただしサーフボード1枚につきボーナスあり。これに失敗すると、相手の目の前でイカダが転覆し死ぬことになります*6

 

青田:トラウマものじゃないですかヤダー!

 

:これはクトゥルフじゃないのに原のSAN値が削れるやつでは……?

 

青田:サフボ、どっちもこっちにあるのでは!?

 

:ありますね!

 

――1枚につき15%のボーナスです。青田さんは(水泳+サフボボーナス)÷2をしてください。その他ボーナスになりそうなものがあれば交渉受け付けます

 

青田:(水泳30+30)÷2………

 

:あ、メーヴェにビニール袋セット付けてましたよね!?その分のボーナスもらえませんか

 

青田:それだ!!

 

――じゃあ二人とも割る前の()の値に+10で

 

青田:私35~!

 

:2で割ると切り上げで53(不安がよぎる)

 

青田:あ、葵ちゃんは全般的に運動が得意で運動神経がめちゃめちゃいいです!!運動神経がよい人は大抵運転はうまい!!!(どう?)

 

――でも操縦に振ってないのでねえ

 

青田:くそ~!

 

――操縦の初期値を足してもいいよ

 

青田:操縦って初期値1やんwwww

 

:あ、それとふたりとも応急手当の結果開始時よりも耐久回復=今体調絶好調なのでは…!?

 

――なるほど一理ある。ではボーナス、開始時よりも増えたHP量×5を、さっきみたいに割る前のやつに加算。以上でボーナス終わりかな。あんまり高くなると大博打にならないので

 

青田:私は(30+30+10+10)÷2で40ですね

 

:110÷2=55

 

――ではその値でロールしていただきます

 

青田:えーん

 

――ハッピーエンドをかっさらえ!

 

:いきます

 

青田:同時にいきます

 

(二人、それぞれ40と55でロール)

 

:せーの

 

青田:せーの

 

青田f:id:nnirukire817e:20180327011529j:plain

 

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――心中ですね。

 

:トラウマになる人はいなかった(白目)

 

青田:しかもわたしファンブル〜。これは速攻波に飲まれましたね

 

:もしかして離れるとき、ちぎれたワイヤーでざっくり……?*7

 

青田:イヤァァァァァァ

 

:原、絶望による死を迎えたのでは

 

青田:わたしは、少なくとも原さんがいきていると信じたまま死ねたかもしれない。原さん、数値が惜しいの、諦めたのでは?(妄想)

 

――ありそう

 

:ホラー苦手とかいうフラグも立ててたしなあ*8

 

青田:原青…………………………

 

青田:原青に黙祷

 

――黙祷。

 

:黙とう

 

青田:いや~~それにしても楽しかった。原青……

 

:水の下にも都はあります? 水底の国でいつまでも幸せに暮らしました

 

――妖精の駆け落ち物語みたいになってる

 

青田:私ワイヤーで首切れてるかも(デュラハンでは?)

 

:首を小脇に抱えた美女と、死んだ目のイケメンカップルか……

 

 

※ ※ ※

 

 強い突風が二人を引き離していきます。

「……!」

 青田はすがりつくようにメーヴェの縁に手をかけ、限界まで指を伸ばしました。あと数センチ、原の指に届きません。

 青田はぐっと体を乗り出してどうにか切れたワイヤーだけでも握ろうとします。しかし強風で跳ねるワイヤーは思うようにつかめず、ぴしりと青田の頬を打ちます。ざっくり切れた頬から血が流れ、痛みで涙が滲みました。

「いけない!」

「……え?」

 必死にバランスを取っていた体がふっと軽くなりました。ついで、どぷんと冷たい感覚。青田は身を乗り出しすぎて水に落ちてしまいました。

 

 原はその光景を、回らない頭でスローモーションのように見ていました。

 この水は有害、一度落ちればどうなるか。

「か、はっ、あ、……!」

 必死に手を伸ばす青田と一瞬目が合いました。もうずいぶん水を飲んでしまっているようです。顔に怪我をしたのか、水に血が混じっていました。これでは助けたところで、きっと体には毒素が残ってしまうでしょう。

「あ、ああ……」

 わかっていました。原は元ライフセーバー。どうしようもない事例だって、いくつも見聞きしています。だからわかっていたのです。自分ひとりでも助かるべきだと。

「ぼくは、きみと、」

 ――きみとなら、たすかるって。

 

 

 すっかり風が止んだころ。鏡のような水面の一箇所には、無人メーヴェと救援に来たボートだけが浮かんでいました。

 火星行きロケットはまもなく発射します。

 

 

 

※ ※ ※

 

 

はい。というわけでシナリオ『エリア86へ行け!』はここで完結となります。お付き合いいただきありがとうございました。

参加者のお二人のおかげで非常にノリノリなセッションになりました。あらためて原さん、青田さん、ありがとうございました。

 

セッションが終わってからもお二人のツイッターがポツポツ更新されているのが、楽しんでいただけたと実感できて嬉しいです。以下はお二人のツイートの様子。

 

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おや……?

 

 

 

というわけで、次のエリア86でお目にかかりましょ! ジージー!

*1:忘れてたんですが、原は38歳なんですよね。青田とは16歳の年の差です

*2:ここにきて青田のSIZ9という小柄設定がきました

*3:本当はもっと見たかったんですが、こうなるとエピローグまで二人の対話だけで進みかねないのでかなり強引に割って入らせてもらいました。すみません!

*4:ここが斎藤千和だと思いますが皆さんどうですか

*5:このシナリオを考えたときから考えていたダイスロールです。そして誰もいなくなった、のエンディングがあるほうが面白いかなって(最低)  ただしこれは実はナシになるルートもあって、PLが両方製作ロールに成功してた場合はアクシデントの発生の余地がないのでここはなくなる予定でした。つまり今回は青田さんが製作ロールにミスってたのがトリガーですね。

*6:GMの手元にはPLのステータスデータがあるので、もちろん事前に両者の数値は把握しています。このままでは青田さんの勝率が極端に低くなってしまうため、サーフボードのボーナスを多めに設定するなど、どうでもいい細かい調整が入っています。このあともだいたい勝率が5割になるようにPLからの交渉を受けています。PLが積極的に口説いてくれる人で良かったぜ

*7:鋭いワイヤー。原さんが事前に決めた持ち物ダイスの結果です。鋭い、というのがここにきて……ですね

*8:映画館での会話ですね「ホラーだけは苦手なんだけど、もし君が観たいなら、頑張ってみるよ」